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前書き抜粋
「くらしに生かす智の技法」は、歴史的なずるい技術のひとつである「計略」をできるだけ実践的に使えるような形にしたものである。
これを学ぶことで、人間関係でさまざまな「はかりごと」がやり取りされ、またその技法を知ることで、より正直に生きることができるようになる。
ネットで調べる限り、実践に落とし込んで使えそうにない「計略」が多い。今のくらしに応用できないなら、歴史的な実践の書がもったいない。
よって、本書は実例を多くあげることにした。なるべく日常生活中の出来事をもちいたり、映画の内容まで取り入れることで理解しやすくした。本書を読みこむ内に、そっくりそのままくらしに「計略」を生かせるようになれれば嬉しい。
もしかするとこれを読むことで、これまでの人生で比較的なんの疑いも持たず真面目に生きてきた人にとっては、この世界が真っ黒で汚れた世界に見えるかもしれない。
しかし、あくまでもここに書かれた内容は、ひとつのものの見方にしかすぎない。
少しいたずら心のある母親が、その子供をしつけるテクニックのひとつとして、何の疑いも持たずに「計略」を用いている例もある。学校や会社などの人が集まる社会では、人は自分では気がつかないうちに「計略」を用いている場合がほとんどだ。
人をコントロールすることに主眼を置いた心理学的なテクニックは、世の中に充分普及しているが、相手との上手な合意の為のテクニックは、そうそう見かけない。意図して他人をコントロールするようなテクニックは、たいてい仕掛ける方よりも仕掛けられた方がその手口をいつまでも覚えているものだ。長い目で見れば、誰もが傷つきショックを受けるようなテクニックであればあるほど、仕掛けられた方はその怨みをいつまでも忘れないだろう。このことは事実として特に留意してほしい。
計略の実践例を書くうちに、著者のこれまでの人生を振り返り、知ってか知らずか「計略」が用いられたとでもいうような、数々の手痛い経験が非常に役に立った。
計略の技の他に交渉術もかなり交えたが、もっともうまくいく方法は、やはり100%ではないがどちらもいくらかは納得のいく第三の道、納得できる新しいアイデアに着地すること、それを探ることが最良だといえる。自分ばかりが正しいと思い込み、戦いに勝つことだけを目的とすれば、鳥も泣かねば打たれまいとことわざにもあるように、いずれそれなりに苦い経験をすることにもなるからだ。
その反面、第三の道を探す者は、やがて言葉の力を自在に操る術者となるだろう。
そして人々が、何が正しく、何が間違っているかをその判断の拠り所としている限り、ずるい技術はいつまでも使われ続ける。同時に、昔風に言えば、この世に生きる私たちは、天の時と地の利、人の和という自然と、この世とあの世でつむぐ陰陽の理からは決して外れることはない。
また、どのような技術を用いたとしても、その結果のすべてを自らの力で得たものではなく、運命あるいは宿命という時の車輪から導き出されたものにしか過ぎないという一面がある。
もし、これらの本質が理解できて腑に落ちれば、私たちは智の技法からもすっかり自由になり、本書は役目を終えることとなるだろう。私たちが誠実さをその拠り所として生き、相手の「計略」をも許すことができる程に成熟すれば、そこに何らかの悪意が隠されていたとしても、それに気づき乗り越えることはたやすい。
悪い経験や嫌な体験は、そこから学びとれる何かが必ずある。自分と他人を許すことで、そのような悪意にもめげず、特に相手を非難することなく、己が意を伝えることができ、我が道を外すことなく先に進めば、それは即素晴らしい人生となる。
自分の持つ欲得や被害者の意識には注意が必要だ。自分の持つ欲の種類によっては、相手の「計略」の意図にいっこうに気がつかないことも大いにあるのだから。もし、智の技法を学ぶ間に、疑心暗鬼に陥り、迷いの森で出口を見失ってしまったのなら、これら本質を思い出すことだ。そうすれば、言葉は迷いの森を抜け出す為の輝く杖となるだろう。
以上、どうぞくらしに智の技法を役立ててください。
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